甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋 

   「おあつらえむきだね」

   「まあ、そうだな」


 ユアンの言葉に眉を上げ軽く笑うと、セオはソファの前のローテーブルの
 上に置かれたビスケットをひとつ口に放り込んだ。


   「なんだこりゃ、これが夕飯か」

   「それは朝食の残りだよ」


 ユアンの返事に、顔をしかめ、セオはやれやれというようにため息を
 つく。


   「外を見てみろ、もう夜だぞ。どうせ昼も食べていないんだろう。
    おまえは書き始めると、なんにも気にしなくなるからな」


 確かに窓の外はもう真っ暗だ。

 手元が暗くなってランプに火は入れたが、夜になったという感覚はユアン
 にはなかった。

 無表情に窓の外を見るユアンを見ていたセオは


   「娼館のほうで飯を食って、もう休む。」


 と言いながら立ち上がり、戸口に向かう。

 視線を戻し、歩いていくセオを見送くっていたユアンは、ふとあることを
 思い出した。


   「セオ、一階のおまえの部屋、今は他の人間が使ってる。
    悪いけど娼館のほうで部屋を借りてくれ」


 振り向いたセオが、ユアンの言葉に頷く。


   「部屋に行ったら、女物の服や小物が置いてあったな。」

   「フィーネに逢ったのか」

   「フィーネ?......ああ、あの娘か、いや、逢ってない」


 フィーネは部屋にいないのか?
 
 今朝起きるなりアイデアが閃いて、すぐ書き始めたからユアンは
 フィーネのことをすっかり忘れていた。

 彼女は一日、どうしていたのか。


   「部屋には誰もいなかったぞ、真っ暗だったし、カーテンも
    開けっ放しで、部屋に誰かがいた様子はまったくなかったな」

   「なんだって!」


 セオの言葉に、ユアンは大声をだした。

 

  

   
   

   
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