甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
薬を持ってあらわれたフィーネとユアンを見て、アルンは驚いたよう
だったが、とても喜んでくれた。
あのとき受けた傷はもうすっかり良くなっているようで、明るい笑顔を
むけられ、フィーネは心から安堵した。
「どうして、こんなに良くしてくれるの」
アルンが目をクリクリさせながら、そう聞く。
「あの布が懐かしくて。私の故郷の近くで作られていたものなの」
「じゃあ、フィーネさんもヨールドの出身なの?」
アルンの目が驚いたというふうに、さらにくりんと大きくなった。
「ヨールドからここへきて三年になるよ」
そう言ってアルンは、なぜヨールドを離れることになったのか、
話してくれた。
あの布の不思議な模様は、糸の間にテグサという植物からとれる繊維を
編み込むことで生まれる。
テグサは澄んだ雪解け水を必要として育つが、アルンたちの暮らしていた
土地ではその雪解けの地下水が涸れ、テグサが手に入らなくなってしまった。
「ここは、ヨールドよりは南だけど、近くに万年雪を頂く高山が
あるでしょ。
それで、テグサによく似た植物がとれる。
そのことを教えてくれたのはゴードンさんで、それでゴードンさんに
いわれて、母さんたちはここでテグサ織りを続けることにしたんだ。
でも、はじめはその植物が本当にテグサの代わりになるか
わからなくて」
だから、最初にゴードンという商人と厳しい条件で契約を結んだのだという。
「そうだったの」
「新しいテグサ織りはうまくいったのに、ゴードンさんは契約の見直し
をしてくれないんだ。
最初の契約書がゴードンさんのところにある限り、なんともできない
ってキップルさんが......」
キップルというのは、工房のまとめ役をしている人らしい。
そのキップルさんのところへ、話があるからと言って行っていたユアンが
戻ってきて、フィーネは名残惜しく思いながらも、ユアンとともに工房を
あとにした。