夢みるHappy marriage
沈黙する車内で少し冷静になった頭。
部屋へ着くなり、今日のスピーチのことについて自分から問いただした。
「……今日のあのスピーチ何?」
「……」
ジャケットを脱いでネクタイをゆるめる彼、私に背を向けた彼から返答はない。
それでも私は続けざまに問い詰めた。高ぶる感情を抑えて、努めて冷静に。
「……榊原さん、この間あたしに言ったじゃん。私とは恋愛できないって、社長としか見てない私のことなんて好きにはなれないって。あたしのことは昔のよしみで、まっとうな恋愛ができるように教育してるだけだって言ってたじゃない。それが一体どうして今日みたいなことになるの?」
「状況が変わっただろ」
「意味分かんない、状況が変わるとあんなスピーチしちゃうの?なんで皆にあんな嘘つくの?私のこと庇ったつもりなの?」
「嘘をついた訳じゃない」
あれが嘘じゃないって?本気で言ってるんだろうか、この人は。
私と付き合うつもりなんてさらさらないくせに。
「……何が本当で何が嘘なのか分かんないよ。正直、あのお見合いも仕事での再会も偶然だって思えないの。全部仕組まれてたんじゃないかって。あの六本木のクラブで会った夜だけじゃなくて、ずっと私のことを知ってたんじゃって思っちゃうの」
「なんなの?私とあなたの関係って何?どうして私にこんなに執着するの?」
「……仕組んでたのは本当だ、でも今はそれ以上は言えない。だけど根本にあるのはお前が幸せになって欲しいっていうことと、お前の人生に降りかかる火の粉は全部振り払ってやりたい。それだけだ」
「……なんで?あなたにとって私って一体なんなの。いい加減はっきりして、これだけ縛り付けておくならちゃんと理由を言って」
「好きだからだよ、これでいいか」
自分から聞いておいて、実際言われると全く信じられなくて何も言えなくなってしまった。
だって一体、私のどこを好きになったって言うんだろう。お茶?アロマ?笑っちゃう。天下の社長様が、そんな簡単に人を好きになったりしないでしょう?
この人は、私の何を知ってるって言うんだろう。
それにこの人は何か私に大きな隠しごとをしている。
そんな人の言葉なんて何も信じられない。
「……全然、信じられない」
ついに涙がこぼれて、不審な彼以上に自分にも原因があったことに気付いた。
そうだ、そもそも私は誰よりも自分が嫌いだから、自分を好きだって言う人の気持ちが理解しにくいんだ。