夢みるHappy marriage


抵抗する術もなくし精一杯の脅し文句を吐いた。


「今度キスしたら、その舌噛み切るから……っ」

「いいよ、それでもやめるつもりないから」

「……嫌っ」

また顔が近づいてきて、顔を背けながら必死の抵抗を続ける。そんな私に甘い言葉を囁くペテン師。


「絢奈、好きだ」

「……嘘つきっ」

そんな言葉にほだされたりなんかしないと、本当に噛みつかんばかりの私に少しも慄く様子なく唇を重ねてくる。


「ん……――っ!」


荒々しくされるものと思っていたのに、びっくりする位その唇は優しくて。

早くこの舌を噛んでこの部屋から逃げ出さないと、このまま榊原さんのペースに乗せられちゃうのに。
頭では分かってるのに、彼のあの弱々しい顔が脳裏に張り付いて、どうしてもできない。

抵抗が弱まったのを見計らったように、榊原さんの唇が、私の唇から首元へ移動していく。
それと同時に手際よくワンピースの後ろのチャックを下げる。簡単にブラのホックを外され、侵入してきた手に敏感なところを触られた。

我慢できず声が上がると、それを皮切りにエスカレートする行為。
どんなに嫌がっても、勝手にうるさく鼓動し始める心臓に心底辟易した。

……自分の浅ましさに反吐が出そうだ。
こんな時でも、彼にときめけるのだから。

そんな中、意識がまだ正常なうちにと最後の抵抗をする。
片手で顔を隠して、片手で榊原さんの胸元をそっと押す。


「……榊原さん、私はやっぱり社長どうこう関係なく本当に好きなんです。だから、こんなぐちゃぐちゃな気持ちのまましたくない」

傷ついてるのは私の方なのに、なぜか榊原さんの方がひどく傷ついたような顔をしている。
それじゃまるで本当に、

「……ねぇ本当に私のこと好きだって言うなら、せめて少し位信じさせて。もう胸が苦しくて死にそう」

切羽詰まった私にまた慰めるかのような優しいキスをする。


「……正直、好きだとか嫌いだとか、付き合う付き合わないとかどうでも良いんだ。俺の気持ちは、単純に好きの一言じゃ片づけられなくて、それでもお前が少しでも安心できるって言うなら好きでもなんでも言ってやるけど」

「聞きたい」

「絢奈、好きだ。……頼むから俺の側にいて」

泣きそうな顔をして切に言うから。
そんな顔をされたらもう何も言えなくなってしまった。


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