ウェスター国戦師(いくさし)の書。2~優しい後悔~
野次馬のご近所さん方に見送られて、救急車は出発する。


指定した中央病院は、名前のとおりウェスター国で一番大きい病院だし、何しろ城一同の主治医だから顔が利く。


腕もたしかだ。


だけど、店からは若干距離があった。


車内はあまり広くない。


母親を挟んで、リンと自分で後部座席はギリギリいっぱいだ。


リンは時々鼻をすすっていた。


泣いているんだろう。


母親譲りの遠慮がちな性格なのか……リンは何も聞いてはこなかった。


先ほどの自分の発言で、聞きたいことはいろいろとあるだろうに。


その証拠に、たまにこちらにチラチラと視線を投げてくる。


それでも、自分と目があうと慌ててそらしてしまうのだ。


何度めか、自分が顔をあげてリンが俯いた時に。


「……ごめんな」


先に自分から口火を切った。


リンは目をしばたかせて自分を見た。


「……さっき店で、黙ってたこともだし。

今までもこうやって、お前一人で大変だったんだなって思ったらさ……」


「……私は、そんな」


リンは慌てて首を振った。


「……お母さん、私がちっちゃい頃から。

ずっと言ってたの、私にはお兄ちゃんがいるんだって。

ただ……お母さん、昔にお兄ちゃんにひどいことしちゃったから、だから、もう会えないって。

そのひどいことってのが何なのかは、お母さん長いこと教えてくれなかったけど。

お兄ちゃんはお母さんのこと恨んでるだろうけど、お母さんにとってはお兄ちゃんは誇りだし、元気の素なんだって。

ファンだって言ったでしょう、あれは本当よ」


……泣きそうになったから、慌てて目をそらした。


本気で胸が痛かった。


自分のその仕草に、リンが心配げに言う。


「ご、ごめんなさい……やっぱり迷惑……?」


この母親は。


やはり、自分や父さんを裏切ったことを悔いて、細くなって小さくなって日々過ごしてきたのだろう。


体にこんなに負担をかけるほど、無茶ばかりして。


……自分が、というか自分の器ってのが。


ものすごく小さいものなんだ、と感じた。


裏切られた思いだけで、思考を止めていたその間。


この母親は、義妹は、どれだけ辛くしんどい思いをしてきたのか。


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