ウェスター国戦師(いくさし)の書。2~優しい後悔~
「あの……さっき、ね?」


恐る恐る、脆いものを触るように、ゆっくりと。


リンが続けた。


「言って、くれたでしょ。

……私のこと、妹だって。

だけど、わ、私……」


涙声に気がついて、思わず顔をあげて義妹を見る。


「……お母さん、最近になって、教えてくれたの……私、本当の妹じゃないんだって。

むしろ、お母さんがお兄ちゃんにした、ひどいことってのは私のことなんだって。

だから、だから……私……!」


違う、それは違うんだ、と言い掛けて言えなかった。


悲しいかな、違わないからだ。


……まだこんな小さい子に。


こんな気苦労背負わせたのか、この母親は……と思いつつ、思い直す。


それは違う。


この子なら、母親の辛さを分かってくれると、願いを託していたんだろう。


どうせいつかは分かる真実だ。


この母親のことだ、義妹に嘘をついているのが耐えられなかったんだろう。


「私には、お兄ちゃんは、お兄ちゃんなんて。

いないの……!」


そう言って泣き崩れてしまう。


……限界、だったんだな。


自分が名乗らない方が、この子にとっては都合がよかったのかもしれない。


だけど、もう。


そんな悲しい思いは、すれ違いは終わらせる。


今の自分に出来ることは、それくらいしかないんだ。


「……折角、会えたのに。

それはない、だろ?」


母親の顔の上をまたぐ形で。


義妹の頭をポンポンと軽く叩く。


「……俺が、ほったらかしてた間。

母さんを支えてくれて、ありがとう。

お前が違うっつっても、俺は、お前を妹だと思ってる」


リンは激しく泣き続けた。


顔をあげられないようだった。


「……迷惑、か?」


さっき言われた言葉をそのままお返ししてやった。


リンは顔は隠したまま、首を大きく横に振って返事をした。


「……大丈夫、だから、な?

泣くな。

母さん、ああ見えてタフなんだから。

お前ほったらかしてったりしないから。

だから……」


言いながら、自分も泣けてきた。


……こんな形の再会を望んだ訳じゃない、それなのに。


目の前に横たわる母親……母さんの顔は、あまりにも生気がなかった。


「……大丈夫……!」


リンに言いながら、自分にも言い聞かせて。


ただ、祈ることしか出来なかった。


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