ウェスター国戦師(いくさし)の書。2~優しい後悔~
「……そのノートは?」


「ん。

リンの奴、保険証やらお金やら取りに帰った時に、母さんの部屋から持ってきてたんだと。

母さんが診察してもらって、即手術になって……その間、ずっとそれ読んでた。

俺に宛てた手紙みたいな文面の、日記だった」


「シンラ宛て?

……日記が?」


「俺に語りかける唯一の手段だったんだろ。

手紙出す訳にはいかなかっただろうから……結構分厚いのが7冊もあんだぜ。

はじめの日記帳は封筒が挟まっててさ。

中から結構な量の写真出てきた。

母さんがあのアルバムから抜きとった分……」



「……なんか、やりきれないってか。

切ないね……」



「……日記。

全部読めた訳じゃないけど、まあ……すっごい苦労してきたってことはよく分かった。

途中まで読んでたら、手術中のランプが消えてさ。

ドラマだけの世界かと思ってたけど、本当なんだなって。

『最善の手は尽くしましたが……』ってよ。

どうすることも出来なかったんだと。

せめて、家族が最後を看取ってやれって言われて。

リンと二人で、母さんが寝てる集中治療室入ってさ。

……顔が、土気色ってのか……それにいっぱい管つながれてるしよ。

俺、正直逃げたかった。

ここで最後を看取るってのが、すっげぇ酷だと思って。

たまんなくて目ぇ伏せた時、奇跡……ってのかな。

急に、その日記帳が入ってた紙袋の底が破れて、床に全部ぶちまけちまったんだよ。

他のはそのまま落ちたのに、一冊だけ、途中のページが開いた形で落ちた。

それが、この日記帳だ。

……お前には、これ……読んどいてもらいたくてよ」


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