シグナル

美智代も井上の事はよく知っており、

この人なら何とかしてくれるかも知れないと、

この時思ったのだ。


更にいつもは子供に無関心に見えていた夫が、

人に頭を下げてまで、

息子を助けようとしている事がこの時分かり、

人に頭を下げることが何よりも嫌いな夫が、

ここまでしてくれる事に嬉しく思い、

涙が止まらなくなっていた。


そして同時に、

我が子を心配している武雄の姿を見て、

もしかしたら武彦は助かるかも知れないと言う、

明るい希望が見えていた。


現在美智代には、

三つの感情が入り交じっている。


一つは夫の息子への愛情が確認できた事への嬉しいという感情、

二つ目は息子を助ける事が出来るかもしれないと言う期待感、

三つ目はもしかしたら息子は助ける事が出来ずに、

施設などへ送られてしまうのではないかという不安、

この三つの思いが彼女の中で複雑に絡み合っている。


そんな美智代の思いを察してか、

井上が優しく声を掛けてきた。


「大丈夫だよ美智代さん…

俺が何とかしますから。

とにかく明日武彦君と接見してみよう!

彼と話して何か聞き出せればいいが」

「よろしくお願いします!」

両親が深々と頭を下げ懇願するが、

「全力を尽くすよ!」

井上の口から出た言葉はこれが精一杯であった。


この様なケースを助手の様な形で一度経験しただけの井上に、

【任せておけ】

とは言え無かったのだ。

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