すれ違う未来

「本当に料理できるんだ・・・」
私は感心して彼に告げた。
「やっぱり信じてなかった」
彼は苦笑する。
「だって・・・私が料理してる時、絶対　手出ししなかったから・・・」
「ごめん。　わざと隠してたんだ」
「え？」
「出来るのにやらないってバレたくなくて・・・」
「どうして？」
「さっきも言っただろ？　俺、結婚したら嫁さんは家庭に入って欲しい」
「うん？」
「俺が家事を出来るって分かったら、家事は分担できるから、仕事を辞めたくないって言われるんじゃないかって・・・」
俯きながら彼は言う。
「そんな事考えてたの？」
「お前の気持ちとか、全然考えてなかったって、今なら分かる。
だけど、小さい時から、そういう家族に憧れてたからさ」
「そういう家族？」
「家に帰れば笑顔で出迎えてくれる人が居るっていう、温かい家族」
私はなんだか目頭が熱くなる。
「その温かい家族を、私とって思ってくれてたの？」
そう言いながら、涙か零れてしまう。
私は彼の何を見てきたの？
彼は私と家族になろうとしてくれていたのに。
「・・・泣くなよ。　ほら、冷める前に食べよう？」
「うん、いただきます」
彼の作ってくれたパスタは鷹の爪が多めだった。
「おいしい」
「そっか、良かった」
「辛いもの好きだったんだ？」
「うん、辛かった？」
「ううん、おいしい。　でも、私がいつも作る味より辛みが強いなって」
「俺、辛いもの好きなんだよな～　知らなかったっけ？」
「うん、これからは辛めにするね」
私の口から自然と　これから　という台詞が出た。
「え？　これから？」
だって、こんな真実を突き付けられたら、もう一度　彼の胸に飛び込みたいと思ってしまう。
私が不安や疑惑を正直に口にできていれば・・・別れるなんて選択肢は無かったのに。
そう後悔している。