理想の人は明日から……
 一流ホテルの会場の入口に、十人の和装の女性が並ぶと、さすがに華がある。


 緊張して並んでいると、部長が近付いて来るのが目に入った。

 部長の、いつもと違う高そうなスーツ姿に、私の胸はキュンとなった。


 部長はじっと私を見ていた。


「綺麗だ……」

 部長は、いつものチャラ部長の目では無く、そうかと言って仕事の厳しい目でもなかった。

 始めてみる、優しくて熱い目だった。



 祝賀パーティは盛大に行われ、大勢のお客様への対応に追われていた。
 お客様へ粗相があってはならないと、必至に務めた。

 中には外国の方もいらっしゃり、何とか英語で答えられ、ほっとした。


「英語もしゃべれるなんて、さすが南さん……」

 声のする方へ顔を向けた。

「あっ、岸田さん……」


 私は、あの強盗事件から、理想の人、岸田さんの事をすっかり忘れていた。


「元気になって良かった」


「ご心配おかけしてすみません……」
 私は頭を下げた。


「いいえ、もっとあなたを助けたかったんですが、僕の出る幕は無いみたいで……」

 岸田は部長の方へ目を向けた。


「そ、そんな……」


「今日の南さん、とても綺麗です…… 部長に睨まれるのを覚悟で声かけました。でも、一緒に食事の約束は、叶えてもらえそうにないですね……」


「ごめんなさい…… 約束していたのに……」


「いいえ。本当に元気になって良かった」

 岸田は優しくて少し淋しそうな笑顔で去って行った。



 すると、スポットライトがステージを照らし、社長の挨拶が行われた。


 そして、マイクが司会者へと移る。


「それでは、新副社長の挨拶へと移らさせて頂きます」


 ステージに上がったのは……
< 26 / 35 >

この作品をシェア

pagetop