叫べ、叫べ、大きく叫べ!
──ガチャ
閉め切られていたドアを引くと優しい香りが鼻をくすぐった。
キッチンにいる母の背中を目にしながら、自分の席につく。
「夏澄ちゃん、よく寝れた?」
「え」
「部屋のぞいたら寝てたから」
「ぁ、うん。よく寝れたよ」
テーブルに夕飯を並べながら母が私に笑顔を向けて話しかけてきた。
驚いた。
私、ちゃんと笑えてたかな。
いや、そうじゃなくて。
私の部屋に来たの?
今日の母はやけにハイテンションだ。
なんか調子狂うな。
でも良かった。今日はこの調子で。
怒っているよりも、断然こっちの母がいい。
だけど、なんだろこの違和感。
聞いてみたい。
『なにかいいことあったの?』って。
でも、それでまた機嫌を損なわせてしまったら……と思うと言えない。
キッチンに戻った母の背中は、音符がそこら中に広がっているように見える。
鼻歌なんて久しぶりに聞いたな、なんて思いながら色鮮やかになっていくテーブルを見て。
「これがいつまでも続けばいいのにね」
母に聞こえないよう微かに呟いた言葉は私の大好物、肉じゃがとともに喉の奥へと消えていった。