叫べ、叫べ、大きく叫べ!

──ガチャ


閉め切られていたドアを引くと優しい香りが鼻をくすぐった。


キッチンにいる母の背中を目にしながら、自分の席につく。



「夏澄ちゃん、よく寝れた?」

「え」

「部屋のぞいたら寝てたから」

「ぁ、うん。よく寝れたよ」


テーブルに夕飯を並べながら母が私に笑顔を向けて話しかけてきた。


驚いた。

私、ちゃんと笑えてたかな。


いや、そうじゃなくて。
私の部屋に来たの?


今日の母はやけにハイテンションだ。

なんか調子狂うな。

でも良かった。今日はこの調子で。


怒っているよりも、断然こっちの母がいい。
だけど、なんだろこの違和感。


聞いてみたい。

『なにかいいことあったの?』って。

でも、それでまた機嫌を損なわせてしまったら……と思うと言えない。


キッチンに戻った母の背中は、音符がそこら中に広がっているように見える。

鼻歌なんて久しぶりに聞いたな、なんて思いながら色鮮やかになっていくテーブルを見て。



「これがいつまでも続けばいいのにね」


母に聞こえないよう微かに呟いた言葉は私の大好物、肉じゃがとともに喉の奥へと消えていった。

< 38 / 273 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop