叫べ、叫べ、大きく叫べ!
彼は『気持ち悪い』と言った。
人の心を読み取るその能力を。
彼がそう言うのはきっと原因があるのだと勝手に解釈してしまうけれど。
私にとっては、ひとつの個性だと思うんだ。
だって人の心が読めちゃうんだよ?次元はかけ離れているけれど、ものすごい才能、能力だと思う。
ていうか、いつまでずっとこんな顔で見てるつもり……?
やっぱ言っちゃまずかった、かな。
あと、なんか恥ずかしいんだけど。
「あの〜、もしもし?」
「……っ、あ、ごめん。違うとこ行ってた……」
「なにそれ。ふふ、違うとこって。これ以上行ったら自分の体に戻れなくなっちゃうんじゃないの?」
「あははっ、確かに」
声を抑えて2人して笑う。
少し腹筋が痛い。こんなに笑ったのは久しぶりで。心做しか嬉しい。
もう笑う日なんて来ないかと思ってた。
でも、彼が違うところから戻ってきたその表情といい、彼が思ったより笑う人ということを知って嬉しくて、面白くて……。
つられて笑顔になっている自分がおかしかった。
――もっとこの人と話がしたい。
なんて言えば、彼がハッとしたように言う。
「もうそろそろ戻ろうかな」
「あ、そうだね。ってちゃんと戻れるの?」
時計は3時になる頃で、彼はその場に立ち上がって窓の外をチラッと見た。
本当に帰ろうとしている様子に寂しさが胸の中を支配しだして、思わず引き止めるように話を延ばす。
……私ってこんなに心狭かったっけ?
そう心の片隅で思いながら、「戻れるよ」と彼は笑って指をさす。
そこには、彼の足から白い糸のようなものが引いてあった。