叫べ、叫べ、大きく叫べ!
「ははっ、『ずるい』か。許して。あんたの前だと気が緩んじゃうみたい」
「なにそれ。変なの」
「変だよな。知ってる」
「あ、そういうことじゃっ」
「うん知ってる」
ふわりと笑う彼に思わずドキリと胸が飛び跳ねた。
色々思うことがあるけれど、一心に押し殺して彼に悟られないように顔を背けた。
ゆっくり立ち上がった彼は今度こそと言わんばかりに窓の外を見た。
月明かりが彼を照らして白く引き立たせるその姿は神々しくて、惹かれるものがあって、そして儚い。
眩しそうに目をすぼめる彼は私に移して「じゃっ」と手を挙げるから、反動的に私も手を挙げた。
「そんな顔するなよ。帰りたくなくなるじゃん」
「は、そんな顔してないし。もう寝たいんだから帰って」
「なんだそれ。冗談だよ。じゃーな」
そう言うと彼はあっという間に居なくなった。
瞬きなんてしないうちに、すぅーと。静けさだけを残して。
だけどさっきまで居たその場所は思いのほかヒンヤリしていた。
「……ちゃんと戻れたのかな……」
窓の外をぼんやりみて彼の安否を心配してから、ごろんと横たわった。
幽体離脱、か。
本当にいるんだ。すごいな。
彼の足に繋がってる糸が命そのものだと思うとなんて摩訶不思議なんだろう。
それと同時に恐ろしくもなった。
体質だと言っていたけれど、もし万が一なことがあったら彼はどうなってしまうのだろう。
そう考えているうちにだんだんと睡魔が襲ってきて、深い眠りに誘われた。