time~元暴走族豊×キャバ嬢カナ~
「何一人で喋ってんだ?」
顔を上げなくても、声だけで誰だかわかってしまう。
「重いんだよ。」
「そりゃ、重そうだな。」
「あ?持ってやるとかっていう優しい心遣いはねぇのかよ?」
足を止めて、視線を向けるとそこにはあの頃よく見ていた顔付きの豊が立っていた。
片側の口角を少し持ち上げ、あたしを見下ろす豊の顔。
あんたには笑わない、その表情が似合ってる。
「仕方ねぇから持ってやるよ。」
「当たり前だ。」
片手で軽々と荷物を受け取った豊はあたしに歩幅を合わせることなく歩いて行く。
どうしてだろう。
あんたの背中を見ていると涙が零れてきそうになる。
「さっさと来いよ。」
言葉と共に振り返り、差し出された手。
あたしは飛び付くように、その手を握り締めた。