国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「ちゃんと食べています……」

「では何か労働を?」
 
今が言うチャンスだと、ルチアは医師からユリウスに顔を向けた。

「あの……聞いてほしい話があります」

「聞いてほしい話? それはいったい……?」
 
ユリウスは美しい眉を寄せてルチアを見つめる。

「わたしたちは沈んだ船を探しに毎日海へ潜っています。でも……毎日では身体がもたないんです。島のみんなの体力はもう限界です」

「ちょっと待ってくれないか? わたしたちと今言ったのか?」
 
ユリウスには目の前の華奢な娘が潜っているとは思えず、聞いていた。

「はい。わたしも2日目から潜っています。バレージ子爵さまにこのままでは全員が倒れてしまうので、交代制にしてほしいと申し出たのですが……」
 
ユリウスはルチアの話に胸が痛くなった。

沈んだ船を見つけたいがために、島の人々に重労働を課してしまったことを。

戦場では冷酷非道な人間でも、自国の民の苦しみはあってはならない。

「……国王はそのようなことになるとは思っていなかったようだ。この件は責任をもってわたしがなんとかしよう」

「本当ですかっ!?」
 
ルチアの言葉遣いに医師は苦い顔になり口を開く。

「これ! 馴れ馴れしいぞ」

「あ、ごめんなさい……」
 
祖母に厳しく躾けられたとはいえ、島の生活では年上を敬うぐらいでマナーなどない。

言葉遣いを注意されてもどう話せばいいのかわからない。

「いや、いい。島で生まれ育ったんだ。いつものように話してかまわない」
 
そう言われて、自分の話し方が粗野だったことに気づき、恥ずかしくなる。

「これを毎食後に二錠飲んでください」
 
医師はルチアに首を横に振ると、カバンの中から薬の入った瓶をルチアの手に置く。

「これは……?」
 
手に置かれた小さな瓶を目の前まで持ってきてじっと見つめるルチアだ。


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