国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「それは栄養剤です」

「えいよう……ざい……」

「君の身体にいいもので、疲れがとれるはずだ」
 
ユリウスが説明したところで、アローラが紅茶を運んできた。
 
美しい白いテーブルの上に繊細なティーカップセットや数種類の焼き菓子が置かれると、ルチアは目をまん丸くしたまま見つめていた。

(なに? これ……初めて見るわ……)
 
島と街の生活の差を改めて感じる。
 
ぼうぜんとしているうちに、医師とアローラが部屋を出て行く。
 
こんな粗野な自分がこの場所で、優雅にお茶を楽しんでいいのだろうか、話は出来たのだからもう帰らなくては。そう思ったルチアはすっくと立ちあがる。

少しめまいはするが、歩けないことはない。

「どうしたんだ?」

「わたし、帰ります」
 
ソファを離れ、扉に向かう。

取っ手に触る前に、ルチアは腕を掴まれた。振り返ると、乾き始めた腰まである淡いブロンドの髪がサラリと揺れる。
 
ユリウスはその長い髪に指を差し入れたくなった。

思っていたよりも背が高く、俊敏な身のこなしのユリウス。恋を知らないルチアの胸がトクンと高鳴った。

「お茶を飲んでから帰るといい」

「い、いいえ。もう遅いので、祖母が心配しています」

(そういえば、ひとりになりたいと言って出てきてから、いったいどのくらいの時間が経っているの?)
 
恐らく数刻の時間が経っており、祖母やジョシュは心配しているだろう。

ジョシュは探し回っているかもしれない。


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