国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「帆船の人が海に落ちて溺れたところを助けただけだから、心配しないで」

 
着替えて出てくると、心配している祖母に言って微笑む。

「そんなことならさっさと言えばいいじゃないか」

「ごめんなさい。そんなに心配しているとは思っていなかったの。ジョシュもごめんなさい」
 
話を聞いていたジョシュにもルチアは謝った。

「ここへお座り」
 
祖母は先に座り、目の前の床を叩く。ルチアは静かに座った。

「お前は自分のことがわかっていない」

「自分のことならわかっているわ」

「いや、お前は誰よりも美しいんだ。近衛兵たちがお前を見初めたらと思うと居ても立っても居られなかったよ」
 
祖母は白髪の頭を大きく左右に振る。

「見初められたらどうなるの?」
 
祖母の話が呑み込めずルチアは首を傾げる。

「血の気の多い男たちのことだ。身体を奪われるだろうよ」
 
ルチアは絶句する。

「身体が壊れるまで犯されるって言ってるのさ」

「そんな……そんなひどいことできるわけないわ!」

「お前は世の中を知らないからね。だからジョシュと結婚しろと言っているんだ」
 
急にジョシュとの結婚を持ち出されてルチアは心の中でため息を吐く。

「ジョシュには悪いけど、わたしは嫌よ。それにジョシュを好きなエラがいるの」

「俺はエラを何とも思っていない。俺が好きなのはルチアだ。一生守ると誓うよ」
 
ジョシュは真剣なまなざしでルチアに誓う。

ルチアはジョシュの黒い瞳を見つめる。彼が本気なのはわかっている。でもどうしてもジョシュを友達、もしくは兄のようにしか思えない。

「ごめんなさい。おばあちゃん、もう寝かせて……疲れてて……」

「わかったよ。早く寝なさい」
 
祖母の許しをもらったルチアは自分の寝床に移動して横になった。
 
横になって目を閉じると、頭がクラクラしていた。

そんな頭で眠る前に思い出したのは美しいアドリアーノ候のことだった。


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