国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「これから娘を診ますので、陛下はご遠慮ください」

 
医師が丁寧に申し出て、ユリウスはまだあとで来ると言って出て行った。
 
側頭部の傷や足の怪我を医師に診てもらっていると、ルチアは今まで触れたことさえない美しい夜着を着ていることに気づく。
 
身につけている事さえ忘れそうな軽い就寝用のドレス。

胸元や袖にフリルが付いていてこのまま外に出られそうだ。

(早くおばあちゃんに会わなきゃ)
 
医師が出て行ったが、アローラは部屋に残った。

「アローラさん、またお世話になってしまって……すみません」

「いいえ。あの美しい島が悲惨な状態になってしまったと聞いています。心が痛いですわね」

「はい……また前のように生活できるのか心配で……」
 
島の復興には時間がかかるだろう。 

「当分はここで静養しませんと。ひどい怪我をしているのですからね」

「あの、おばあちゃんはどこに?」
 
祖母と一刻も早く話をしなければならない。

祖母が罪に問われるくらいならば自分は姫じゃなくてもいい。それにあのペンダントを持っていたくらいでは姫だという証拠はない。

「エレオノーラさまのお住まいの棟にいますよ」

「姫さまの棟? ここは違うの?」

「はい。こちらは陛下の居住区です。ルチアさんは陛下の客人としてここに」
 
アローラはあ然となっているルチアに微笑む。

「ここからおばあちゃんのところまで離れている?」

「ええ。とても離れています」

「ジョシュを呼んでもらうことは出来る?」
 
ルチアはどうにかして祖母に会わなくてはならない。ジョシュを呼び、祖母のところまで連れて行ってもらえればと思ったのだ。

「陛下の居住区に足を踏み入れることは出来ません」

「そんな……」
 
ルチアの眉根がギュッと寄せられた。

「もう休んでください」
 
アローラは天蓋のレースの布を下ろし行ってしまった。


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