国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「ルチア、無理はしないでくれ。まだ動けない」

 
自分には向けないユリウスの優しい目にエラが悲しくなる。

「そうよ。ルチア、おばあちゃんのことはわたしに任せて。身体を治すことだけを考えて」
 
エラはルチアにいたわりの言葉をかける。ルチアに嫉妬しているが、どう扱っていいのかわからないのだ。幼い頃から一緒に過ごし、仲がよかったせいで。
 
憎めるものなら憎みたい……エラはピンク色の下唇をギュッと噛んだ。

「エラ、医師を呼んできてくれるかい?」

「え? あ、はい。わかりました」
 
エラが出て行き、ユリウスとふたりだけになったルチアは困惑気味に瞳を向ける。

「あのペンダントは高価なものだから預かって保管している。どうして君がしていたか、なんだが……?」
 
ルチアの祖母が浜辺に倒れていたエラから捕ったと言うこともあり得る。慎重に事を進めて行かなければならない。
 
ルチアは祖母があのとき話してくれたことを言うのが躊躇われた。本当のことならば、祖母がエラの両親に嘘をつかせた罪は大きい。それにのったエラの両親も罪に問われる。

(エラは自分が姫だと思っているはず……)
 
エラの幸せを壊したくないルチアは困った。だが、このままでは祖母はペンダントを盗んだ罪に問われるかもしれないのだ。

「……おばちゃんは浜辺に流れ着いたものをずっとしまっていて、嵐の夜にわたしの首に」

「あのペンダントは流れ着いたもの? 姫の君がつけていたんじゃないのかい?」
 
ユリウスはルチアが姫であればと、希望を持っていた。

「わたしが姫さま……? そんなわけがないです」

(あぁ……わたしはなんてことを言っているんだろう……姫さまであればユリウスに堂々と好きだと言えるのに……)
 
ルチアはまっすぐ見つめてくるユリウスの目が見られずに、瞼を閉じる。

「ごめんなさい……頭が……」

「そうだった。君は病人だった」

そこへ医師とアローラがやって来た。


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