溺愛なんて聞いてない!

あんた、さっきまで“北王子君”だったじゃん!


なんて突っ込みしてしまう自分が辛い。
煌、と呼んでいるのは多分私だけ。

それが何故なのか分からないが、私の知る範囲で“煌”と呼ぶ人は居なかった。

だけど、こんな綺麗な人に呼ばれたら……煌だって嬉しいだろうな。
自分だけの特別だなんて勝手に自惚れていただけだ。
そう現実を見たその時、煌がいつものように好青年の仮面を被って爽やかな笑みを浮かべた。

とたんに「きゃーーー」と上がる黄色い声。

クラス中の女の子の目がハートに変わる。

だけど私はゾクリと背中に走った。
だって、あれは絶対機嫌が悪い!!!!




にっこりと誰もが蕩ける笑顔を浮かべた煌。

「先輩?申し訳ありません、僕他人が作った物って食べられないんです。気持ち悪くて」


そう言ってさらりと毒を吐いた。


「………………え?」
ピシリ、と人が固まる瞬間を見てしまった。

思春期真っ只中な私たち。
そんな男女が、女子が。異性の部屋へ行きたいというその意味。
きっと耳をダンボにしてクラス中の男子が聞き耳たてているはずであろうその意味を、煌が分からない筈がないだろうと誰もが思っている。

だけど煌は……

「それと一緒でプライベートな空間に他人が入るのも許せなくて。先輩が来る意味も分かりませんし」

そう言ってあっさりと切り捨てた。


こ、煌ーーーーーー!!!
煌が潔癖な事もご飯が食べられないことも知ってるけど、今は空気を読んで!

私がハラハラしてしまうっ!!!


「……………………な、」


わなわなと怒りが浮かぶ先輩の綺麗なお顔。
美人の怒る顔は迫力がありすぎるっ。



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