にゃんとも失せ物捜査課です
 こんな奴に何をそんなに…そう思うとおかしくて、つけてやるぐらいまぁいいかと思えた。

 夜にまた何か言われるよりかは、今この時間にササッと終わらせれば何事もなく無事に快適な睡眠時間を確保できるよな。

「何がそんなにおかしいのか分からない。」

 まだ笑う犬飼に美雨はムスッとしている。

 そんな美雨に笑い過ぎて出た涙を拭きながら
「大事にするほど大層なもんじゃねぇぞ」
 と念押しして、首すじに唇を近づけた。

「ハハッ。くすぐったい。」

「なんだよ。動くとつけれねーだろ。」

 はしゃいでいる美雨の肩をつかむ。
 そのまま華奢な体を引き寄せて、首すじに軽く吸いついた。

「ん…。」

 なっ……………。

 ハッとして思いっきり体を引き離す。
 目を丸くした美雨の顔が視界に入るが、そんなもの構わない。

 な、んだよ。今の…。

 心がザワザワし始めて、引き離した時に目に映った赤い跡が頭をチラチラとかすめる。
 白く柔らかな肌に自分がつけた赤がやけに艶かしく、しかも………声………。

 急激な後悔が押し寄せるのに反応している体に嫌気がさす。
 それなのに不意に立ち上がった美雨にドクンと胸が騒いだ。

 やばい。今、これ以上近づかれたら………。

 ダダッと駆け出した美雨が行った先は洗面所。

「あっー!すごぉーい!」

 感嘆の声が聞こえて、ハハハッと笑えてしまう。

 何やってんだか。俺。

 頭をかかえ、嫌悪感や体の奥から湧き上がる色々なものを排除しようと躍起になった。
 それなのに排除しようとすればするほど出て行ってくれない。

 ふと気がづくと美雨が戻ってきていて、ドキリとする。

「見て!綺麗についてるよ。」

 髪をかき分け首元をさらけ出す美雨に、つけた跡が露わになる。赤く艶かしい………。
 思わず顔を背け、見ないように努めた。

「いいか。
 あんまり人に見せるもんじゃねーんだ。
 髪で隠しとけよ。」

 頭と一緒にぐしゃぐしゃと髪をかき回す。

 荒くかいているのに、手に嫌でも柔らかな髪の感触と美雨の温かいぬくもりが伝わってくる。

 俺、どんだけ欲求不満だよ。

 心の中で自嘲すると、もう一度自分の頭をかかえうなだれた。
 そんな犬飼を美雨が不思議そうに眺めていた。
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