桜時雨の降る頃
「こわっ! 陽斗、何とかしろよ〜、ご機嫌ナナメちゃんだぞコイツ!」

「どしたの? そんな怒って」

「怒ってない!」

いやいや、怒ってるよな、と朔斗のヒソヒソ声が聞こえてくる。

「違うよ、ただなんか……なんで話してくれなかったのかなって思っただけ!」

そう説明はし直したものの、決まりが悪い。


「ふーん? そーいや、なんで?」

朔斗も不思議そうに言った。

陽斗は、わたしを見ながらふっと笑う。

「単にタイミングがなかっただけだよ。俺らあんまりそういう話しないじゃん?」

…………確かにそうだ。

わたし達のあいだで、そんな話出たことない。

女のわたしが初恋もまだだからだろうか。

「納得してくれた? あえて内緒にしてたわけじゃないよ」

「……うん。わかった」

陽斗がわたしの気持ちを察してそう言ってくれたおかげで、素直に頷けた。





陽斗はいつもわたしの気持ちに寄り添ってくれる人だった。


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