恋におちて
出逢いの日

平凡な女 side 深雪



はぁ~…
綺麗に結い上げた鏡に映る自分の顔を見て
今日、何度目になるかわからないため息が
こぼれる。

某有名ホテルの化粧室。
紅葉も綺麗に色づき始めた十月末日。
時期的に違和感のある華やかな振り袖姿の
女が一人。

化粧室に入って数分。
髪の毛を整える訳でもなく、
化粧を直すわけでもない。
浮かない顔をして
鏡の中の見慣れない女を見ては
ため息をこぼすを繰り返す
不毛な時間ばかりが過ぎていく。

“季節外れの振り袖姿”で一目瞭然。
これからこのホテルでお見合いをする私。

堂本 深雪。

お見合いがイヤな訳じゃない。
今まで好きな事をやらせてくれた母が、
私の結婚を望んでいるから。
お付き合いをしている人がいない今、
お見合いをして、こんな私でもいいと
言ってくれる方なら断るつもりはない。

…それでも振り袖はないと思う。
あと一週間ちょっとで28才になるのに
いかにも張り切ってます!って思われない?
いつもより濃いメイクも、
きっちり纏められた髪も、
必死さが伝わってくるのは気のせい?

「相手の方の負担にならなければいいけど…」

何の前触れもなく決まった今日のお見合い。
父の知り合いの息子さんだと言っていたけど…

「またお母さんが無理言ったんだろうな。」









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