恋におちて
10分程歩くと目の前に広大な敷地の
庭園が広がった。
東京のど真ん中…ましてやホテルの敷地内とは
思えない景色だった。
「凄い……」
「凄いな…」
同じタイミングで同じ言葉を口にしたこと
にも驚いて、目を見合わせて二人で吹き出して
しまった。
穏やかで優しい時間が二人を包んでいた。
庭園の中程にある池に架かる太鼓橋まで歩き、
橋の上から池の中を優雅に泳ぐ鯉を眺めた。
「そろそろ戻りましょうか。」
そう声をかけたのは私からだった。
「お疲れなんでしょ?」
自分の目元を指しながら彼の目元にうっすらと
あるクマをさりげなく指し示す。
「あぁ少し寝不足かな…」
苦笑いを浮かべる彼に、
「母達も待ってますし」
と、言うと彼も自分の腕時計に目をやり、
「一時間以上たってた…」
さすがにこれ以上待たすのは…と
来た道を戻ることにした。
「気をつけて」
見た目より急な太鼓橋の階段を降りるのに
彼が振り向きながら足元に視線を向け
うつむいたとき、彼の首もと…160㎝の私から
は決して見えない場所に目がいってしまった。
あっ…
一瞬の体の強張りが手を繋いだままの
彼に伝わってしまい、どうした?と顔をあげ、
見上げるように視線を向けられた。
真っ直ぐ彼の視線を受け止められなくて、
視線を反らし、首を横にふるので精一杯だった。