恋におちて


さっきまでの穏やかで優しい時間が
もうここにはなかった。

彼は悪くない。

勝手に勘違いして、
勝手に浮かれて、
勝手に傷ついて……

傷ついたと思った自分に苦笑いしか浮かばない。

初めからわかってたことじゃない。

イケメン×20代×外科医

モテないはずがない。

お見合いとは無縁だって。

でも………

二人の時間が楽しかったから
繋いだ手が温かくて優しかったから
一緒に笑ってくれたから……………

胸が軋むように痛い。

ちゃんとに笑えてるかな…
ちゃんとに喋れてるかな…

目元にクマが出来るほど疲れてるのに
貴重なお休みの時間を使って来てくれた
彼に最後まで笑っていて欲しくて、
必死に笑顔を張り付ける。

戻るまでの道のり、何を話していたかの
あまり覚えていない。

ふと視線を前に向けると、ラウンジのガラスが
見えてきた。

楽しかった時間ももう終わり…
夢から覚めて現実に戻らなきゃ…

手を繋いだまま母の前に行くわけにも
いかず、手を離すために足を止めた。








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