オフィス・ムーン
「…そういうのは、男から言わせろよ。それに… お前お袋の事でかわいそうだとか同情してるんじゃないの?」
「違うわ。確かに私は大輔のお母様と会って、驚いたわ。怖かった。でも、私がこんなに愛した大輔、私をこんなに幸せにしてくれた大輔を生んで育ててくれた人、私もお母さんって呼びたいの」
「お前は、何も知らないから。あの状態より何倍も酷い時だってあるんだ。」
「私の事ずっと今日みたいに拒絶したって構わない。大輔が一人で抱えてる思いを私にも抱えさせて欲しいの…同情なんかじゃない。私の決心なの。愛した貴方と全て分かち合う覚悟なのよ。」
「…まだ遥に話してないこともあるのに」
「…そんなのどうだっていい。大輔は、どっちなの?私と結婚したいのしたくないの?」
「…遥、僕と結婚して下さい。」
「もちろんよ。大輔」
「…近いうちに遥の両親に会いに行こう」
「じゃあ、今から行きましょうよ」
「ダメだよ。スーツ着て無いから。挨拶するんだから、正装しなきゃ」
二人は冗談みたいに笑った。
「遥の事、何時からすきだったと思う?」
「え?わかんない。ね、何時から??」
「会社に入社して一週間ぐらいから」
「またぁ…からかわないでよ。その頃部署だって違うし、まだ、私達出会ってないじゃない」
「…新人研修終わって帰ろうとしたら土砂降りで、傘持ってなくて、立ってたら、君が貸してくれた。」
「え?嘘?」
遥は覚えていなかった。
「ロッカーにこの前急な雨の時にコンビニで買ったビニール傘があるからって、わざわざロッカールームまで取りに戻ってくれて。返さなくていいからって」
「…ごめんなさい覚えてないわ」
「…翌日から3日間ぐらい君を探したけど、名前も部署も聞いてなかったから…そのまんまになったけどね。…同じ会社ならいつか会えるかと思ってた。」
「で?大輔は、その時私に一目惚れしたんだ?」
遥は、わざと明るく茶化す様に言った。
「…あの日、会社に入社するのを辞めようかって思ってて、雨宿りってより、考え込んでいたんだ。」
「そんなに研修って大変だったの?」
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