オフィス・ムーン
 大輔は、遥の両親へ挨拶に伺う事をあれこれ考えていた。
自分が遥より3つ年下で、平社員で、あんな状態の母がいて、シングルマザーの母子家庭で育った事、不倫の末の子供だと言う事…いったい何処まで話すべきなのだろうか?
遥は何時もの様に夕飯を作っていた。
「大輔?」
「何?」
「どうしたの?」
「何?」
「ご飯できたわよ。さきから読んでるのにちっとも返事してくれないし。どうしたの?考え事?…もしかして、大輔、私と結婚したくないの?」
「違うよ」
「なんか、怖い顔してるわよ」
「自分が遥の親だったら、大事な娘を僕みたいのには、やらないな…と、思ってさ…」
「僕みたいのって、何よ?」
「遥より年下だし、あんな状態の母がいるし、平社員だし、しかも僕は、 不倫の子供だし。それを君の両親にどう話すか考えると気が重くて…」
「…そんなの関係ないのよ。」
「あるだろ、付き合うのと結婚は違うんだ。」
「大輔は自分の母親を恥じてるの?」
「そうじゃない!」
「…私、大輔のお母様の事は、何も知らないけどでも素晴らしい人なんだと思うわ。だって大輔は、私が知ってる人の中で1番素晴らしい人なんだもの。そんな貴方を育ててくれた人が素晴らしくないはずないもの」
「遥…」
「…嘘じゃないわ。私は弟の事で両親を避けていたくせに本当は、両親を何時も意識していた。だから学校や就職も両親が自慢出来る所って考えて決めてきた。前の彼氏と付き合ったのも最初は、彼が医者だったからよ。最低だった…でもね、貴方は、そんな事なんかよりずっと価値がある物を教えてくれた」
「…何も無いから」
「あるわ。」
「何がある?」
「大輔の優しさと頭がいい所って凄く惹かれてる…それに大輔は、流行りとか周りに流されない大輔らしさがある。仕事柄一見、人に合わせてるけど何時も自分を見失う事は無いわよね」
「…単なるマイペースなだけだよ…頑固だし」
「…普通なら出会いたいと望んでも出会う事が出来ないくらいの出会いだとあの夜 思ったの」
「…あの夜って…君と弟の話しした?」
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