カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない
ふたりの間にはしばらくの沈黙が流れ、風に揺れたリンデンバウムの葉擦れの音だけが聞こえる。
ヒックヒックとしゃくり上げるたびに揺れるモニカの肩を、リュディガーの大きな手がそっと掴んだ。
「モニカ」
呼びかけられて顔を上げると、目の前に彼の翠眼があった。モニカと同じ目の高さにまで腰を屈めたリュディガーは、いつも以上に真剣な表情をして口を開く。
「モニカ・ヘレーネ・クラッセン。きみに結婚を申し込んでもいいか?」
「……え?」
「もちろん、今すぐじゃない。モニカが大人になり、俺が皇帝として国を安泰させてからだ。――五年。五年後に、きみを妻として迎えたい」
ざざ、と木々の間を夏の風が駆け抜けていく。
モニカの煌めくブロンドがなびき、リュディガーの黒髪も揺れた。
アンバーの瞳は夢見るような色を浮かべて潤んだままだ。突然の求婚に、夢か現実かもわからないほど胸がドキドキしている。
「わ……私が、ルディの妻に……?」
大帝国の皇后になるなど夢にも思ったことはなかった。まだ少女のモニカにはそれがどんなものなのかは漠然としかわからないが、たいへんな責務を負う立場だということは理解できる。
混乱の時期にあるとはいえゲオゼルは大陸において軍事、経済ともに随一の強豪国家だ。そこに嫁ぐということは大陸のファースト・レディになるということでもある。
内気なモニカにとっては恐ろしさしか感じられない。とても自分のような引っ込み思案に務まるとは思えない。けれど。