オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
私はようやく呼吸を取り戻す。
同時に急速に気がしっかりしてきて、すっかり眠りに陥ってしまった向居の身体をそっと押しのけ腕からすり抜けると、向居の魔の手が届かない所まで逃げる。

今のは…今のは本当に危なかった。
私はほぉと息を吐き、まだ少し高鳴っていた心臓が落ち着くのを待ちながら、またもや脳内を巡り始めた考えに困惑する。
やっぱり、向居の片思いの相手ってーーー。


「これだから最近の男は…。酒も弱くて不甲斐ないったら」


その意識を押しのけるように、私は無駄に明るい声で独り言ちた。
そして困惑する頭を落ちつけたくて、さっきお祭り会場で土産用に買ってきた日本酒を開けて、備え付けの湯飲みで一口。
ううん、美味しい。
ほんわり、心地よい酔いが回ってきて頭が落ち着いてくる…。


『おまえ、ザルすぎ』


ところが、向居の呆れたような声音がふんわりと甦った。

うるさいわね。紙コップの焼酎やら日本酒を五、六杯飲んだだけじゃない。
私に言わせれば、どいつもこいつも弱すぎるのよ。会社の飲み会でも接待の場でも、女はかわい子ぶってジュースみたいなのしか飲まないし、男はこれみよがしに「仕事できる女性は違いますね」なんてあおってくるし。
『ザル』だの『酒豪』だの、アラサーとは言えまだ二十代の女子に言う言葉かっちゅーの。

ちらりと向居を見やる。

…こんな私の、どこがいいんだろう…。

向居はライバル。
それ以上でもそれ以外でもない。

そう思っていたーーーけれど…。
この先も、そう思えるだろうか。

そう思うことを向居は許してくれるだろうか…。

胸が落ち着かない。
部屋の静けさと向居の寝息が妙に耳について、よけい苦しい気持ちになる。
すがるように部屋を見回すと、時計は九時を差していた。ふて寝したくとも、今の私に睡魔が付け入る余裕はない。


「…そだ…。お風呂でも入ってくるか…」


熱い湯につかって無心になるまでのぼせたら、すぐに寝てしまおう。
私は道具を持ってふらりと浴場へ向かった。





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