オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
「今が、って…なんでわざわざこんな時間に行くのよ? 土産物屋も空いていないような時間に行ったってつまらないじゃない」

「土産物屋や観光客がいないこの時間が、現地のそのままの風情が感じられていいんだよ。どこの観光マップにも載っているありきたりな情報より、ひと味ちがう方がいいだろ?」


向居にそう言われると弱い。確かに昔ながらの風情を楽しむのに人混みや土産物屋の雑然とした雰囲気は余計だろう。
一度くらいは行ってみるのもいいけど…。


「ちょっとまってよ、化粧が…」


そうだ…昨晩は化粧のまま寝たけど、ベースメイクだけだから、ほとんどすっぴんだった…。
ああなんてこと。すっぴんだけじゃなく、よりによって寝起きの顔まで向居に見られるなんて…。
と、女子のプライドが損なわれたことに嘆く私に対して向居は、


「いいよそんなの」

「…良くないっ」


短く溜息をつく向居。


「じゃあ十五分で用意しろ。朝は時間との勝負なんだからな」


なんてベッドに腰を下ろす向居は、準備万端。よく見ると、サイドボードに飲みかけの缶コーヒーまである。

テレビでは、若い女性気象予報士が晴天の下でほがらかに笑っている。今日は気温も高く春真っ盛り…。

今日の向居は白のスプリングセーターなんて爽やかなスタイル。柔らかそうな素材が今の季節に合っていた。
髪を短くそろえたうなじから、広い肩にかけてのラインがくっきり見えて、男らしい。
…思わず見惚れてしまう。
なによ…仕事ができるイケメンは、朝も無駄にはしないってわけ?

…と皮肉る時間なんてなかった。
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