オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
洗面所に駆け込むなり、鏡に映った自分に戦慄を覚える。
顔がむくんでる。
どうしてやけ酒なんかしたのよ、私っ!

小顔に見えるようメイクするのに十分かけた。
髪を巻く暇はなかった。昨晩はちゃんと乾かさなかったから変なくせ毛まで出てしまっているのを、適当に弱く結って誤魔化す。
あとは超高速で着替えとその他身支度をして、


「まだか?」

「今終わったところよっ!」


ばーんと洗面所から出ていくと、向居はまじまじと私を上から下に見た。


「なに」

「いや、やっぱ女は化けると思って」

「は?」

「十五分でいつもの軍師様の登場とはな。さっきはあん…」


口をつぐんで向居は失敬と言わんばかりにニヤリ。


「今なんて言いかけたの?」

「いや別になにも言ってない」

「うそ! ぜーったい『アンパンマン』って言おうとしたでしょ!?」

「『アンパンマン』??」


途端に向居は失笑した。


「『あんなに寝ぼけ顔だったのに』って言おうとしたんだよ。『アンパンマン』って、言われてみればたしかに顔はむくんでいるように見えたけれど…お前、自分で墓穴掘ってどーすんだよ」


ついには腹を抱えて笑い出す向居。

む、むかつくーーー!!


「もう知らないっ!!」

「あ、おい待てよ」


もう今日一日かまってやるもんか! と荷物を持って先に部屋を出て行こうとしたら、手を握られた。


「ジャケット、一応羽織っていけ。ここの朝はまだ寒いから」


そうして、私のジャケットを肩にかけてくれる。

私が準備している間に、出して待っていてくれたんだ。
よく見ると、放り投げていたバックもスマホも、きちんとテーブルに置かれている。

恥ずかしくなって、私はちらと横目でみた。


「ありがと」


微笑みで返しながら、向居もジャケットを羽織る。


「今日のセーターすごく似合っているな。綺麗だ」


と、さらりと言いのけて玄関に向かう後姿を、私はなにも返答できずに見送った。

不覚にも胸が高鳴っていた。

基樹には一度も褒められたことがなかったけれど、このセーターは大のお気に入りだった。





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