インモラルな唇を塞いで
「やばーい美味しすぎるね」
「これは旨い」

遊佐は驚異のペースで平らげており、私が食べ終わるまでにミントソーダの追加注文をしていた。

私が付け合わせのポテトフライを食べていると遊佐の鞄からシンプルな着信音が鳴った。

「悪い」

スマートフォンを取り出して遊佐が席を立った。
歩きながらスマートフォンを耳に当てるとそのまま店の外に出ていく。

「あれ?」

その姿を目で追い、手元のポテトフライに視線を戻そうとしたところでテーブルの側に何か落ちているのに気付いた。
席をずれて手を伸ばすとそれはブルーの定期入れだった。
通学範囲の駅からしても遊佐のもので間違いなさそうだ。
あとで渡そうとテーブルの上に裏返すと、二段になっているポケットの縁から紙のようなものがはみ出ているのが見えた。
映画の半券か何かかと思い引っ張ると、それは小さな写真だった。

「写真…?あ」

その一枚を引っ張り出すともう一枚入っていたらしく、テーブルの上にひらりと落ちる。

「ウェディングドレスだ」

テーブルに落ちた写真はウェディングドレスを着て微笑む綺麗な女性。
そして手元の写真は少し古さを感じさせるもので、幼い女の子と男の子が並んでいるものだった。

「これ…遊佐?」

男の子は幼いながら目元が遊佐にそっくりだった。
そして男の子よりも少し年上にみえる女の子の目元のホクロを見てウェディングドレスの女性の写真にもう一度目を移した。

同じ人だ。
それに、この口元。

遊佐とそっくり。

よく見ると顔の雰囲気も似ている。
この女性はきっと遊佐の姉だ。

そしてこの写真を定期入れに入れている意味。

「何してんだ」

気付かない間に遊佐が戻ってきていた。
私が手元に持っている写真を見て遊佐の眉間に皺が寄った。

「返せ」

いつもの遊佐ではあり得ない乱暴な手に写真を奪われる。

「ごめん、定期入れが落ちてて、気になって見ちゃった」
「…お前、何でもかんでも悪気ないで許されると思うなよ」

低く冷たい遊佐の声。
怒ってる。
こんな遊佐は初めてで、どうしていいか分からない。
側に立ったままの遊佐の顔が見れずに俯く。

「ごめんなさい」
「……………はぁ」

長い沈黙のあとため息を出した遊佐が椅子を引いて腰かけた。
ちらと遊佐の顔を伺うといつもの無表情だった。

「もういい。落とした俺が悪いし」
「……お姉さんだよね」
「ああ、そうだよ。…引いただろ」
「…なんで?」

ぼそりと言われた言葉に純粋に疑問を感じてそう言うと遊佐は反応に困るような表情を見せた。珍しい。
視線をさ迷わせてからもう一度私を見た。

「…この年でシスコンなんて引くだろ普通」

ばつが悪そうに言葉尻で目線を逸らす遊佐がほんとに珍しくてじっと見つめてしまう。

どうしてそんなこと言うんだろ。

「シスコンっていうか…お姉さんのこと好きなんでしょ?」

遊佐が横を向いたままぴくりと身体が反応すると目を開けたまま固まったように停止した。

写真を手にしたときの直感が、確信に変わった。

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