インモラルな唇を塞いで
予鈴ギリギリに教室に入るとまだ落ち着かない雰囲気の教室の隅で遊佐は着席していた。

「ねぇもう普通授業って早くない?もっとオリエンテーションとかしたいよね」

椅子を後ろに引いて猫背の状態でスマートフォンをいじっているところに声をかける。
「クラスの交流みたいなさー」と言ったところで一瞬横目で私を見てすぐに液晶画面に視線を戻した。

「…全く興味ないだろ」
「やっぱり分かる?」
「団体行動できないだろお前」
「遊佐も同じタイプでしょ。仲良くなれるね私たち」

無意味にピースなんてしてみると昨日と同じ目が視線で呆れていた。
少し嫌そうな顔に見えなくもない。

「お前とは一緒にされたくない」
「またまたー。私みたいなタイプ好きでしょ」
「どっから来んのその自信」
「だって遊佐って私の好きな人と似てるから」

そう言うと頬杖をついたまま液晶画面から離れた遊佐の視線が私を捉えた。
その思考を見透かしたくて見つめ返してみる。

「その好きな人はお前みたいなのが良いって?」
「うん。世界一愛してくれてる」
「あっそ」

ふいと逸らされた目には何の揺らぎもない。
興味がないからか。

「やっぱり遊佐っていい」
「…お前、変」

一人楽しくなって口元が緩む。
学校も悪くないと思える程には遊佐に対する興味は膨らんでいた。



昼食の時間のベルが鳴ると購買組が早足で教室を出ていき、辺りがにわかに騒がしくなった。

「真知」

前からえりかが歩いてくる。出席番号1番の彼女の席は遊佐の列の一番前だった。

「あのさ、汐里たちとご飯食べるけど真知もどう?」
「うーん、私はいいかなー」
「やっぱりか」

えりかは答えが分かっていたように苦笑して「じゃあまた」と去っていった。
机に座ったまま横に引っ掛けていたバッグからお弁当を取り出す。

ふと横を見ると遊佐は机に突っ伏して寝たままだった。
私が知る限り4時間目の途中からずっと寝ている。

「ゆーさー」
「…ん」

大きめの声で呼び掛けるとピクリと遊佐が身動ぎする。
そのまままた動かなくなったのでそっと立ち上がって遊佐の机に近付いた。
しゃがみこんで遊佐の顔を覗き込む。
両腕を下敷きに顔をこっちに向けて無防備にうとうとしているのを見ると何か悪戯したい衝動に駆られる。

息のかかる距離。
すー、という安らかな寝息。

意外と睫毛長いんだな、と思いながら人差し指で頬をつついてみる。

「んん…」
「遊佐起きて~」

ゆっくりと瞼が開くとまだピントの合っていない目が視線をさ迷い、間近で私の目とぶつかった。
瞳が茶色いな、と思いながら見ていると僅かにその眉間に皺が寄った。

「…何してんの」
「遊佐起こしてた。もう昼だよ」

遊佐は寝起きに不機嫌そうな表情になるものの、実はそんなことはないと昨日学んだのでにっこり笑って言った。
目を擦りながら上体を起こして教室を見渡し、遊佐は無言でスクールバッグからコンビニの袋を取り出した。

「買ってきてんの?」
「わざわざ教室出るのめんどい」
「なるほどー」

言いながら自分の席に戻って机の上のお弁当を広げる。
蓋を開けると大好物の唐揚げが目に入った。

「からあげだ」
「お前友達と食べないの」

カレーパンの袋を破りながらめんどくさそうな表情で遊佐が言った。

「んー、一対一だと良いんだけど複数になるとなんか面倒だから」
「ああ」

珍しく同意を得たような返事にちらりと遊佐を見る。
遊佐がカレーパンにかぶり付く直前に「ねぇ」と声をかけると口に入れるタイミングを逃した遊佐が睨むように私に視線を投げた。

「4限の英語課題出たよ」

それを聞いてからばくりと一口でカレーパンを半分ほど口に入れ、しばらく遊佐は咀嚼していた。

「教えてほしい?」
「…この流れで言わねえのか」
「テキスト10ページの長文和訳明日まで」
「容赦ねーな」
「貸し一つね」
「…お前も容赦ねーな」


そう言って遊佐は残りのカレーパンをまた一口で口に放り込んだ。

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