ハロー、カムアロングウィズミー!
最初のうちは記者からいくつか質問を振られて答える。相手が話すのを聞きながらゆっくりと次の手を考えた。
もちろん、制限時間などは存在しない。メインはあくまで対談だ。

「ご結婚されて、仕事に影響はありましたか?」
「妻の存在は大きいですね。政治家の仕事はとても一人ではやり切れませんので、今までも私と秘書とで手分けしてやって来たのですが、今では妻も出来る限り協力してくれています。ひょっとすると、地元では私よりも妻の方が人気があるかもしれませんよ」

記者から振られた話題に冗談を交えつつ答える。
本来ならば家庭と仕事とは切り離して考えるべきだが、政治の世界ではそんな理想は通用しない。
政治家の妻は、私人でありながら完全な私人では居られないという、摩訶不思議な存在だ。
有坂にも同じ質問が振られる。彼は、悩む素振りも見せずあっさりと答える。

「仕事には特に影響はないですね。もちろんプライベートの時間は充実しましたけど。対局中は基本的に一人なので、結婚する前と何ら変わりないです」
「奥様は将棋関係の方では?」
「いいえ、ごくふつうの会社員です。影響と言えば、煮詰まった時に妻の会社の話とか聞くと気分転換になるくらいですかね」

どこまでも孤独な戦いを続ける男に少しだけ同情する。と同時に、潔いまでに言い切ったその言葉を、羨ましくも感じる。
それは有坂も同じだったのか、二人で同時に小さくため息をついた。

真依子には“政治家の妻”ではなく、純粋に“俺の妻”であって欲しいと願う気持ちもある。
しかし、彼女は俺にとって最愛の存在であるとともに、高柳征太郎という政治家には欠かせないキーパーソンだ。
悲しみも、喜びも全てを分かち合い、共に戦うことを選んだ。そう言えば聞こえは良いが、単にそれ以外に戦う術がないだけだ。
さらに、そんな状況に巻き込んでおいて、時々どうしようもなく彼女を独り占めしたくなるときがあるのだから、何とも情けない。

ため息と共に「うらやましい」のひと言が漏れなかったのは、せめてものプライドだ。
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