ハロー、カムアロングウィズミー!
一時間ほどそんな時間を過ごしたが、そろそろ対談も終盤に差し掛かろうかという頃に、有坂がポツリと自分の弱点を漏らした。

「幼い頃から将棋のことばかり考えてきたので、自分が世間知らずだという自覚はあるんです」
「恥じる必要もないと私も思います。人にはそれぞれの生き方がある」

俺も世間の常識とはかけ離れた世界で生きているから、その気持ちは理解できた。

「僕もそれを恥ずかしいと思ったことはありません。将棋しか知らない狭い世界で構わないと本気で思っているので」
「世間知らずと言われるのは政治家も同じかも知れませんが、政治では広い世界の中から最良を選ぶことが重要なので、私は努力して広い世界を知らねばと思っています」

棋士と政治家の、決定的に違うところ。
それでも、ともに人生を賭けて答えを探しているのは同じだ。

「狭い世界だからこそ、迷いなく進める時もあります」
「広い世界で探した結果、ようやく辿り着いた答えにも、迷う余地はありませんよ」
「どちらがいいかなんて、誰にも言えない」
「どちらも、きっと正解ですからね」

有坂の指先が今日一番というくらい、美しい音を立てる。
一瞬にして、目の前の男が勝負の世界に身を置く男であることを思い出した。

奇しくもこのタイミングとは。
私は苦笑しながら、言葉をつけ足した。

「………どうやら、先ほどの私の一手は不正解のようですが」

この世界では、まるで勝てる気がしない。

「すみません。どんな状況でも、手加減はしない主義なので」

そして、この男とは意外にも気が合うかもしれないとも思う。
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