空に虹を描くまで



先生が教室にいたら遅刻扱いになるかもしれない。

遅刻にならなかったとしても、怒られるのは目に見えている。


そんな不安が頭をよぎったが、それも気にならないくらいさっきの出来事に胸が躍っていた。

それは探していたノートが見つかったからなのか、それともいい人に出会えたことに嬉しかったのか…。



そんなことを考えているとあっという間に目的地についた。

呼吸が乱れ、心臓の音が全身に響きわたる。


名前くらい聞いとけばよかった。

後になっていろいろ考えがよぎるけど、今更どうしようもない。


あんな時間ギリギリじゃなかったら、どこで見つけたのか、とかいろいろ聞きたかったのに。


「じゃあ、号令かけて」

教室の中から先生の声が聞こえた。


「やば!」

「起立」という委員長の声と椅子が床にこすれる音に紛れて、後ろの扉から小さく音を立て目立たないようにさっとみんなの輪の中に入った。


「着席」という掛け声とともにわたしも椅子に座った。

よかった、気づかれなかったみたい。


そう思っているのも束の間、「井上ー!」と先生から声がかかった。




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