幼馴染は関係ない
最終話
「そうか・・・中元が誰にでも優しいんじゃなくて、花音にだけ優しいなら・・・それなら俺は・・・。
中元が花音を大事にしてくれるなら、認めてやるよ」
言い捨てる様な竜生の台詞に私の何かがブチンと切れた。

「・・・あのさ、『認めてやるよ』って何!?
私と新君が付き合ってる事、竜生に認めてもらわなきゃいけない事? 関係ないよね?」
「花音?」
小さな声だけど、いつもより低い私の声に新君は戸惑っている様。 でも、止められない。
「私が悪かったんだね。
竜生の事、呆れたり、最低って思ったりしたことたくさんあるのに、竜生がどんな人間でもそれを更生させるのは私じゃないって放っておいたから。
きちんと、『呆れちゃう』『最低ね』って言えば良かった」
「花音? ちょっと・・・」
新君は私のキツイ物言いに驚いている。
「新君との付き合いを反対や否定をされたくない、みんなに認めてもらいたいって思ってたけど、そんなのもうどうでもいい。
新君と家族さえ、私を認めてくれたらそれでいいの・・・だから、竜生は関係ない」
「俺は、イケメン中元に花音が遊ばれてんじゃないかって心配だし・・・。
中元は誰にでも優しい男だ、あっちでも彼女を作ってるんじゃないかっていう疑惑を持ったっていうか・・・。
とにかく花音が心配なんだ!」
「だから関係ないんだって! 私の人生に竜生は関係ないの!!! 
もしも、新君との未来に泣いてしまう事が起きたとしても、それは私と新君の問題であって竜生には全く関係ない。 心配なんてしてくれなくていいの。
私はいつだって竜生の言葉で惨めになってた・・・今更、竜生に優しくされても何も信用できないの。もう、放っておいて! 私に構わないで!」
私が怒りを押し殺すように言うと、新君はとても優しい声で、
「花音、落ち着いて。 大丈夫、上尾君は花音を傷つけたい訳じゃないんだよ?
そんなに興奮しなくても、もう上尾君は何も言ったりしてこないよ。 そうだろ?」
新君に訊かれて竜生は茫然としたまま頷いた。
私がこんなに竜生に逆らう様な態度を取るのは初めてのことだから驚いたのだろう。
「・・・うん」
私は深呼吸して新君を見上げる。

「僕の事、認めてくれたって事は、もう花音を諦めてくれるって事でいいんだよね?」
柔らかい口調で新君は竜生に訊く。
「・・・ああ、こんなに花音に嫌われてたら諦めるしかないだろ?」
そう竜生は苦笑した。
「嫌ってなんかなかった・・・私は竜生に意地悪されても嫌味言われても、竜生を嫌いって思ってなんかなった・・・だけど、私の人生に入り込んでこられるのはイヤ。
そんな所まで竜生の行動を許すことはできないの・・・私達、ただの幼馴染なんだから」
「分かったよ・・・もう花音と二人になろうとしたりしないし、花音と中元の事を何か言ったりしない」
「ありがとう。 それが聞けて僕は安心だよ」

私の家に帰ると、母は、
「早かったのね? どうしたの?」
と不思議そうにしていた。
「うん・・・早く切り上げたの・・・」
私が苦笑する。
「なんだ、中元君と二人になりたくて早く帰って来ちゃったの?
中元君、上がって行くんでしょ? どうぞ!」

私の部屋で新君と向き合う。
「なんか、ごめんね。 あんな事言わせて・・・」
新君らしくない行動を取らせてしまった。
「さっき言ったのは本心だよ。 花音を失うかもしれないって思ったら僕は嫌な人間になってでも花音との別れを回避する。
それより、花音の方が・・・大丈夫?」
「竜生の事、本当になんとも思ってないのに、みんなに責められるみたいに言われただけで悔しいのに、竜生に『認めてやる』なんて言われたら・・・もう我慢できなくて・・・」
「うん、さっきの花音、ちょっと怖かったかな?
でもやっぱり、そういう本心を引きだすのは僕ではなくて上尾君なのか・・・て嫉妬しちゃうな?」
新君は優しく笑う。
「新君が浮気したら、もっと怖くなっちゃうから!」
と私も笑うと新君は、
「浮気なんてしないって分かってるだろ?」
チュッと軽いキスをしてくる。
「でも、たくさん声かけられるんでしょ?」
私から新君の唇に吸いついた。
「んっ」
舌を絡める大人のキス。
下半身が疼いてしまう様な・・・。
「声だけはかけられるけど、興味無いからきちんと断ってるよ」
さっき、同級生にしていた様にだよね?
「うん・・・信じる」
私は新君に抱きついた。
「ヤバイね・・・さっきシタのに、もうシタイなんて・・・」
と苦笑する新君。
「・・・うん」
私が頷くと、新君は驚いた顔で、
「花音も!?」
と訊いてくる。
「だって・・・好きだから・・・」
「なんか、凄く厭らしい事言われた気がする・・・僕の事を好きなだけじゃなくて、僕とのエッチも好きだって」
と耳元で囁く新君。
そんなことされたらもっと疼いちゃうよ。

「あっ、そういえば昨日の着物、すごい似合ってたし綺麗だったね」
新君は甘ったるい雰囲気を打破する様に話題を変えた。
・・・さすがに両親が家に居るのに行為を続行する勇気は無いよね。


───数ケ月後───

あれから竜生と全く会わない。
多分避けられているのだと思う。
中学からの友達から誘われることもない。
・・そうだよね、いつも竜生が間に入って誘ってくれてたんだから。
全然寂しくない、と言ったら嘘になるかもしれないけど、もうみんなと笑い合えないと思う気持ちは変わらない。
私の気持ちを無視して、竜生と付き合えばいい。という様な事を無責任に言われた事は忘れることはできない。
みんなにとって、私の気持ちなんてどうでもいい事なんだろう。
竜生の想いが成就する方がみんなにとって大切なんだ・・・。
でも、私が竜生を選ぶ日は来ない。
竜生にとって大切だと思える女性に出会えることを陰ながら祈っている。
幸せになって欲しい。なんて、私が言ったら竜生は嫌がるだろうけど・・・。

私は社会人になり、会社の同期の子と仲良くなれたし、優しい上司に恵まれた。
どんどん、私の人生に新しい人脈が出来ている。
それでも変わらないものがある。
それは、新君の存在。
新君以上に『素敵』な人も『好き』になれる人も存在しない。

新君を『好き』という気持ちを大切にしたい。
毎日電話をして、時々会って、肌を重ねて愛を確かめる。

私にとって、新君だけが『生涯愛するたった一人の人』だと信じてる。
そして、新君にとって、それは私であって欲しいと願っている。

新君が帰ってくる日を楽しみに私は毎日を前向きに過ごしていけている。
新君が大学を卒業しこちらに帰ってくる日を待っているから、いつか約束どおりお嫁さんにしてね。






最後までお付き合いありがとうございました。
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