眠れぬ王子の恋する場所


「大丈夫ですよ。隆一は、お金を盗りはしましたけど暴力をふるう人じゃなかったですし」

「そう言いきれるかわかんねーだろ。金が絡むと人間は変わるし、盗みを働くようなヤツが逆上して殴りかかってこないとは限らない」

はっきりと言われ、言葉を呑む。

たしかに、最初は隆一がまさかお金を盗むような人だとも思っていなかったんだし……暴力をふるわないとは言い切れないのかもしれない。

「でも……たぶん、お金が用意できなかったら、部屋にきて殴りかかるんじゃなくて、約束を無視して部屋にはこない可能性の方が――」

「それに、おまえがあまり甘い顔してれば利用される可能性だってある」
「利用?」
「女は稼ごうと思えば男よりも稼げる。借金の返済が近づいて手元に金がなかったからっておまえの金に手を伸ばすヤツだろ。
本当に追い詰められたら、なにをするかわからない」

隆一がそこまでするとは思えない。
私を売り飛ばすようなことはしないはずだ。

でも……久遠さんの言うことを完全には否定できなくて、なにも言い返せなかった。

過去の、優しい隆一を信じちゃダメだ。
私の部屋からお金を盗んだ隆一を、それをとぼけて済ませようとした隆一を、再び信じちゃダメなんだ。

自分のためにも、しっかりと警戒しておかないとダメだ。

そう思い、ぐっと唇を引き結んでいると久遠さんが唐突に話し出す。


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