眠れぬ王子の恋する場所


社長の〝三ノ宮〟という名字を出すと、すでに受付には久遠さんから連絡がいっていたようで、エレベーターに案内してもらうことができてホッとした。

それにしても、高そうなホテルだなと思う。
ベージュ色したタイルの床はピカピカだし、その上に敷かれている濃紺色の絨毯もとても上品だ。

部屋まで案内してくれようとするボーイさんを断り、ひとりで乗ったエレベーターで三十二階まで上がる。

そして、控えめな音を立てて止まったエレベーターの扉が開くと、エントランスやエレベーターの中同様、高級な雰囲気が漂うフロアが現れた。

一階と同じ色をした絨毯が続く廊下。ドアとドアの間にはたっぷりと余裕があって、部屋の広さがうかがえる。

ライトが照らすルームナンバー。
それを確認しながら進んで、みっつ目のドアの前で足を止めた。

3203号室。社長に教えられたルームナンバーだ。

インターホンはあるけど、社長にはノックするように言われている。

その理由は、インターホンだと出てこないからってことだったけど……こんな重厚そうなドアをノックするのも気が引ける。

それでも気をとり直しノックしようと、軽く握った手を胸の高さまで持ち上げてはみたものの……ノックして久遠さんが出てきたとして、そのあとどうすればいいのかがわからず、眉を寄せる。

社長には様子を見て来いって言われたけど、具体的にはどうすればいいんだろう。

生活力がない……みたいなことを言ってたし、顔色を確認すればいいのかな。まぁ、少し話してみて、元気そうならいいか。

大体、相手は二十九歳の大人の男だ。ひとりでどうにでもできるんだし、チェックなんて最低限でいいはずだ。

そう結論を出してから、重厚そうなドアを三回ノックした。

たっぷりと、二十秒。
もう一度ノックしたほうがいいのかな、と思ったときだった。ドアが開いたのは。



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