眠れぬ王子の恋する場所
「あ――」
挨拶しようとした声が止まったのは、中から現れた久遠さんが、社長に聞いたように美形だったからだった。
一八〇センチ近くある長身に、すらっとした体型。
だるそうな表情を浮かべているけれど、そんな表情さえ魅力的に思えるほど顔立ちが整っている。
二重の瞳とすっと通った鼻筋。形のいい唇に、すっきりとした輪郭。
柔らかそうな黒髪は以前の吉井さんほどじゃないけれど、長めで、てっぺんから自然に下ろした髪は目の上で揺れていた。
外は今日も真夏日だって言うのに、とても涼しそうな印象を受けた。
首元のボタンをふたつ開けたYシャツ姿に、仕事中だったのかな……と考える。
社長が、久遠さんはデスクワークがほとんどで、ホテルの部屋で仕事していることも多いって言っていたから。
見つめすぎたからか、久遠さんは眉を寄せ私を見た。
「なに、おまえ」
「え……ああ、すみません。三ノ宮社長から、久遠さんの様子を見てくるように言われた者で……佐和といいます」
自己紹介すると、久遠さんはますます顔をしかめた。
もしかしたら、社長がくると思ってたのかもしれない。
久遠さんは不愉快そうに歪めた目で私を見たあと、何も言わずにくるりと背中を向けて部屋のなかへと引き返すから、どうしようか少し悩んでからそれを追う。
「あの、社長から頼まれただけですので、大丈夫そうならすぐ帰りますから。とりあえず……元気ですか?」
なんだかおかしな質問だな、と思いながらも言ったのに、久遠さんは返事をしないまま通路を歩き進む。
そして、その先に広がる部屋の中央にあるローテーブルの前に腰を下ろし、胡坐をかく。