眠れぬ王子の恋する場所


追いかけていたけれど、さすがに部屋に入るのは……と思い、通路と部屋の間くらいで立ち止まった。

ホテルの部屋なんて、ドアを開けたらすぐ部屋が広がっているイメージだったのに、ずいぶん長い通路だったな、と考え振り返る。
通路の右側には何枚かドアがあるから、洗面所とかトイレとかだろうけれど……ドアの間隔からして広そうだ。

さすが高級ホテル……と思いながら視線を部屋の方へと戻し、部屋の奥から感じる人工ではない眩しさに目を細めた。

南側にある大きな窓からは、太陽の光が差し込んでいて部屋を明るく照らす。
レースのカーテン越しの柔らかい明かりが入り込む部屋は、外観からの予想通り広々としていた。

久遠さんが座った部屋だって二十畳近くありそうなのに、ベッドが見当たらないってことは、もう一部屋あるってことになる。

もしかしたら、スイートルームってやつだろうか……と思いながらキョロキョロ見回していると、パチン……とかすかな音がして視線を移す。

音は、久遠さんの指先に持たれたパズルのピースからだった。

ローテーブルの上、枠組みだけしか組まれていない未完成のパズルがある。
久遠さんは、集中しているんだか、ただぼんやりしているんだか、どっちにもとれるような表情でパズルのピースを見つめていた。

「……元気では、ないですよね?」

見た瞬間から思っていたけれど、顔色がよくない。
なんだか白く見えるし、疲れが滲んでいるような印象を受けた。

社長が言っていた〝生活力がない〟って言葉を思い出し、納得する。
生きる気力が見当たらない部分は、吉井さんに少し似ているかもしれない。


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