眠れぬ王子の恋する場所


「すぐに荷物まとめて出て行って欲しいんですって。同居生活がもう限界みたいで。
まぁ、早い話が佐和さんに飽きちゃったってところですかね。つまりは、裏切られたってことです」

「裏切られた……」と、私の口からこぼれた言葉に、石坂さんが「そう」とにこりとする。

「ああ、でも久遠さんを恨んだりしないでくださいね。ほら、人の気持ちなんて本人の意思関係なしに変わるものですし……裏切りたくて裏切ったわけじゃないんですから」

我が物顔で言われた途端、すっと頭の中が冷静になった気がした。

本当だろうか、とぐるぐるしていたものが、ストンと落ちる。

「……それ、久遠さんが?」

静かに問うと、石坂さんがしたり顔で答えた。

「はい。佐和さんには申し訳ないんですけど……ほら、久遠さんって冷たいところがあるから。悪く思わないであげてくださいね」

石坂さんがずっと浮かべている笑みを見つめながら、気付かされた自分の気持ちにキュッと唇を引き結んだ。

私は昨日、痛手になる前に……なんて考えたけれど。
そんなのもう、手遅れだ。

もう、とっくに信じてしまっている。久遠さんのことを。

石坂さんに告げられたことが、嘘だって断言できるくらいに……私に見せる久遠さんの態度を信じてしまっている。

久遠さんに、恋をしてしまっている――。

そのことに、石坂さんとの会話のなかで気づき、思わず苦笑いがこぼれた。

「佐和さん? なに笑って……」
「久遠さんは、たしかに偉そうだし横暴だけど。そういう大事な話を人づてに済ませる人じゃない」

久遠さんは、誰かを傷つけることに敏感だ。私を傷つけたかもしれないって思って、悩んじゃうくらいに。

そのくせ、自分の傷は放りっぱなしで……そういうところが、たまらなく、私は――。


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