眠れぬ王子の恋する場所
「そんなのわからないじゃないですか。佐和さん、久遠さんの全部を知っているわけじゃないでしょう? 一部分しか知らないでしょ。
なのに自分の期待とは違う言葉を告げられたからって信じないなんて、おかしい……」
「別におかしくてもいいよ。ただ、私は、私が見て知った久遠さんを信じてるってだけの話だから」
遮ってそう言い切ると、石坂さんは笑顔を消し、表情を険しく歪める。
思うようにいかなかったからなのか、次の一手でも探しているのか、ぐぐっと押し黙ったまま私を睨みつけてくる石坂さんを、私も見つめ返した。
「伝言は、きちんと受け取ったから。それでいうことを聞かない私の責任だし、石坂さんが久遠さんに怒られることはないでしょ。……もし〝伝言〟が本当だったとしても」
「――そんな〝伝言〟が、本当なわけがねーだろ」
静かだったはずの廊下に聞こえた声に驚き視線を向けると、いつの間にきたのか、久遠さんの姿があった。
その数歩後ろには社長の姿まであって……どういうことだろう、と混乱する。
久遠さんは、さっき電話を受けて出て行ったけれど、その相手って社長だったんだろうか……。
こちらに近づいてきた久遠さんが、私の隣に立ち、石坂さんをじっと見下ろす。
それから、社長を見て言った。
「三ノ宮、やっぱこいつだ。ホテルの周りうろうろしてたやつ」
「ああ、そう。なら被害届出すか。このマンションっていくつか防犯カメラついてるけど、それってどこに連絡すれば証拠として出してくれんの? 管理人? それともカメラ管理してるセキュリティー会社?」
「たぶん、セキュリティー会社。あー、でも、そのセキュリティー会社の連絡先知るには管理人に連絡とらないと無理だな」
「ふーん。エントランス前にたしか連絡先書いてあったな。俺、ちょっと電話してセキュリティー会社の連絡先聞いてくるわ」
とんとん進む会話をただ聞くことしかできずにいると、社長が背中を向けて歩き出す。
よくわからないけど、管理人に電話しに行くってことだよね……と思って眺めていると、急に石坂さんが「待って……!」と叫ぶから、びくっと肩が跳ねて久遠さんにぶつかってしまった。
さっきまであんなに余裕そうだった石坂さんが、いつの間にか焦っている表情に変わっていた。