眠れぬ王子の恋する場所


「ホテル周りをうろうろとか……確かにしてましたけど、それはただ単に、あのホテルに興味があっただけで……」

話の流れからして、たぶん、石坂さんは久遠さんが宿泊しているホテルの周りをうろうろしていたってことなんだろう。

……ああ、だからそれが嫌で久遠さんはマンションに戻ってきていたってことなのかな。

そういうことか、とひとりで納得していると、立ち止まった社長が振り返り、ニヤッと口の端を上げた。

「そうなんだよなー。ホテルだとそう言い逃れられんじゃねーかって思ってたから、そのときは特に問題にしなかったんだよ。
久遠に変な女がうろうろしてるっていう話は聞いてて、どうも特徴からするに石坂なんじゃねーかなって思ってたんだけど。俺のこと警戒してか、俺が見張ってるときには姿現さねーし」

探るような眼差しを向ける社長に、石坂さんは「それは……だから、ホテルに興味が……」と、曖昧に繰り返すだけだった。

そんな石坂さんに、社長が「はいはい」と笑う。

「まぁ、そんなわけで、久遠に話を聞いてからは、本格的に石坂の行動を監視してた。石坂に自由度の高い仕事させてたのもそのためってわけ。
日中、どういう行動とるか見てたけど、見事に久遠財閥の本社周りとかいってキョロキョロしてるし。分かりやすすぎだろ」

社長の言葉に、吉井さんが言っていたことを思い出す。

『あの人の任せられる仕事って、そんな感じのばっかだよ。してもしなくてもいいような仕事っていうか、誰が依頼してきたんだか不思議になるようなヤツばっか。見回り系とか通行人調査とか』

『佐和さんの抜けた穴を補填するために雇ったはずなのに、仕事らしい仕事させないし。まぁ、どういう事情があるのか知らないけど』

吉井さんがそう怪しんだとき、社長は『そう、やたらと鋭く勘ぐるなって。俺にも言えることと言えないことがあるんだよ』なんて言ってたけど……こういう理由だったのか。

石坂さんをわざと泳がせていたのか……と納得がいく。

『石坂さんも様子おかしいよね。久遠財閥の御曹司の話してるのに、話に強引に入ってこないところも、テンション上げないのもおかしい』

その話をしたとき、吉井さんは石坂さんのことも不思議がっていたけれど……と考えていると、社長が続ける。



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