眠れぬ王子の恋する場所
「久遠さんは、見返りはいらないとか、諦めてるとか……離れた場所でも幸せになってくれれば、とか言ってましたけど。
私は、それじゃ嫌です」
『おまえが考えてる通り、色々思うことはあるけど。だから、なんて言うか……信じるとかそういう感情より、諦めてる』
『一方的って言った方が近いかもしれない。見返りとか、そんなのは最初から期待してない。だから、おまえとか三ノ宮が、笑ってられればいいと思ってるだけ。俺と関係ない場所でも、そいつらが幸せならそれでいい』
久遠さんからこの言葉を聞いたとき、ショックを受けた。
そんなことを望むことが、久遠さんの精一杯なんだって気付いて……そんなの嫌だと思った。
社長や私の幸せじゃなくて、自分の幸せを願って欲しいって、強く思った。
初めて逢ったとき、感情を浮かべないビー玉みたいだと思った瞳を見つめて続ける。
「第一、久遠さんなんて放っておいたら絶対幸せになんてなれません。ひとりにさせたら、クマも不眠症も復活して延々パズルの生活に逆戻りです」
私を見つめるビー玉みたいな瞳に……今は熱がこもっていると感じるのは、きっと気のせいじゃない。
膝の上でそれぞれ握っていた拳の上に、ぽたりと涙が落ちる。
気付けば泣いてしまっていた。
「だから、私が傍にいます」
伸ばした手で、久遠さんがソファに放り出している手に触れる。
やっぱり冷たいそこに体温を重ねて、久遠さんをじっと見つめた。
涙で揺れる向こう、久遠さんが目を逸らさずに私を見つめているのがわかった。
「傍にいるから、久遠さんも望んでください。ちゃんと……私のことも、自分の幸せも、望んで、欲しがってください」
はぁ……と吐き出した息が熱い。
泣いてしまったことが恥ずかしくて、うつむき片手で涙を拭っていると、不意にそこに久遠さんの手が触れる。
近づかれ勢いよく顔を上げると、目の前に久遠さんの顔があって驚いた。
ソファの上で重なった手はそのままに、もう片方の手で私の頬に触れている久遠さんが無言で涙を拭う。
熱くなった頬を撫でる指先を気持ちよく感じながらも、甘いような気まずいような沈黙に戸惑っていると、久遠さんが聞く。