眠れぬ王子の恋する場所
それにしても……と、顔をしかめた。
さっきから会話が一方通行で一向に返事が返ってこない。
最初は、社長がくると思ってたのに知りもしない女がきたら、そういう反応にもなるかなって思っていたけれど、これはあまりに失礼だ。
「あの、私は、三ノ宮社長から久遠さんの様子を見てくるよう頼まれてここに来たんです。邪魔ならすぐ帰りますから、せめて答えるくらいしてください。元気じゃないですよね?」
苛立ちながら聞いてみても、返事はなく、代わりにパチンというパズルのはまる音が聞こえてくるだけで、ぐぐっと眉を寄せる。
ありえない。二十九歳のいい年した大人の男が無視とかありえない。
いつも社長のことを、いい年してあんな明るい茶髪にして……とか思っていたことを心のなかでこっそりと謝る。ちゃんと会話してくれるだけ社長のほうがマシだ。
人の問いかけには答えないくせに、パチンパチンとパズルの方は順調みたいで、そこにまた腹が立つ。
私の存在はパズルをする集中力の妨げ程度にも意識されていないらしい。
いい加減、我慢するのも限界になり、立ち止まっていた足でツカツカと歩く。
そして、久遠さんの向かいに膝をついて、パズルをしようとする手首を掴んだ。
久遠さんは、そこまでしてようやく視線を私に向ける。
覇気のない瞳がわずかに驚いているように見えた。
「せめて目くらい合わせてください。話すときは、人の目を見ることって習いませんでしたか?」
口を突き出して聞くと、久遠さんはじっと私を見たまま「……そんなん知らねーけど」と言う。
なんだ、普通に話せるのか。口は社長並みに悪そうだけど。
そんなことを思いながら「知らないって、親とかに普通、習うでしょ?」と聞いても無反応だから、そのまま続けた。