眠れぬ王子の恋する場所
「いいですか。邪魔するつもりはありません。すぐ帰ります。でも私は、社長から様子を見て来いって言われている以上、久遠さんの様子を把握する必要があるんです。数分ですむので協力してください」
「……めんどくせぇ」
顔をしかめた久遠さんには構わず「食事はとってますか?」と聞くと「朝食べた」という返事をされる。
今は十五時。どんなに朝しっかり採っていたとしてもお腹が空いていい時間だ。
「……まぁ、いいか。じゃあ熱は……ないですね」
手首を掴んだままだけど、特別熱かったりはしない。
むしろ冷たく感じてそれが気になるほどだ。
でもまぁ、真夏の日本で凍死はしないだろうと大ざっぱに片付け、次……と思い、顔をじっと見つめた。
やっぱり、顔色が悪い。瞳にだって力がない。
うつろというわけではないにしても……これはちょっと。
〝目が死んでる〟っていう表現がピタリとくるというか、精気も感情も浮かばない瞳はまるでガラス玉みたいだった。
「……なに」
じっと見つめていたからか、機嫌悪そうに言われ、私も顔をしかめる。
「寝てますか? 顔色悪いんですけど」
語気を強めて聞くと、それまでは目を合わせていた久遠さんが視線を逸らす。
そして尖ったような声で「関係ないだろ」と吐き捨てるように言った。
まぁ、関係ないって言われればたしかにそうだ。
社長には〝顔色がよくなくてひたすらパズルしてました〟って報告すればいいことだし、特に看護系の資格のない私には、これ以上の健康状態チェックの仕方だってわからない。
それにしたって……初対面の相手に、よくもこれだけ失礼な態度をとれるな、と思いながら手を離し立ち上がる。
社長に、〝金持ちと知り合いになっておくといい〟みたいなことを言われたけれど、こんなのとは無理だ。会話が成り立たない。
そもそも、二十九歳にもなって、他人に心配されて様子まで見にこられちゃう人なんて普通じゃない。