眠れぬ王子の恋する場所
「それもそうですね。私には関係ないので帰ります。お邪魔してすみませんでした」
せめてと、少しでも感じ悪く言って背中を向けてから……振り返った。
「目、充血してますよ。パズルもいいですけど、するなら目薬さしたりした方がいいですよ。
それくらい自分で買えるとは思いますが……必要なら社長に言っておきます」
それだけ言い、今度こそ帰ろうと歩き始める。
でも、数歩歩いたところで、うしろから追ってきた声に止められる。
「おまえ、なにしにきたんだよ」
振り返ると、久遠さんが眉を寄せ私を見ていて……カチンとくる。
なにしにきたかなんて、もう何度も説明したはずなのに。
今までなにを聞いてたんだ、と大きなため息をついてから口を開いた。
「だから、社長に久遠さんの様子を見てこいって頼まれて仕方なく来たんですよ。来たくもないのにわざわざ」
「来たくないって言ってもそれがおまえの仕事だろ。……いいよな。そんなんで金がもらえて」
はっと馬鹿にするように笑われて、顔をしかめた。
「ケンカ売ってるなら買いますけど」
例え、男女で体格や力に差があるとしても、こんな精気の抜けた状態なら勝てると思う。
勝てる……勝てるかな……?
まじまじと確認してみると、久遠さんは意外としっかりとした身体付きをしているように思え自信がぷしゅうっと音を立てて消えていくようだった。
それでも睨むように見ていると、久遠さんは指先に挟んだひとつのピースを眺めながら言う。
「三ノ宮んとこで働いてるなら、便利屋のスタッフだろ。それって金払えばなんでもすんの?」
チラッと向けられた眼差しが、わずかに色を含んだ気がした。
密室にふたりきりという状況に急に危険を感じ、持っていたバッグを胸の前で抱え直す。
「言っておきますけど、触ったら訴えますから」
「そんな貧相な身体に欲情するわけねーだろ」
心底そう思っているように呆れ笑いで言われ、ムッとし「触られてませんけど、侮辱罪で訴えます」と睨みつける。
確かに、貧相ではあるけれど……と悔しくなりながら口を尖らせた。