眠れぬ王子の恋する場所
『おまえ、なにしにきたんだよ』
『来たくないって言ってもそれがおまえの仕事だろ。……いいよな。そんなんで金がもらえて』
さっきそんなことを言われて腹がたったけれど……あれって、私が帰らないように呼びとめていたのだろうか……。
こんな豪華で広さもある部屋で。立派なソファも椅子もあるのにそれは使わずに、床に座っている久遠さんを見ているうちに、なんだか寂しい気持ちになってきてしまう。
あんなに頭にきていたのに……放っておけない気持ちにさせられる。
「空気がピリピリしてますけど。いつもそんな感じなんですか?」
さっきまでとは違う、静かな声で聞くと、久遠さんはチラッと私を見たあと、またパズルに視線を落とし「別に」とだけ答えた。
……答えがおかしい。質問と対になってない。
ため息をつきながらも、久遠さんの態度が、まるで不貞腐れている子どもみたいに思えてしまい、そのまま帰るわけにもいかずにテーブルに近づいた。
態度は反抗期の子どもみたいだし、顔色は悪いし。
このまま帰っても明日社長になんて報告すればいいのかわからない。
様子を見てこいっていうのはただ様子を見て報告すればいいってことでもなくて、必要なら面倒見てこいってことなんだろうし。
まったく、厄介な頼まれごとだなと思いながら、ローテーブルの前で立ち止まり未完成のパズルを覗きこんだ。
「なんですか? これ」
顔を傾けて久遠さんの方向から見ても、なにが出来上がるのか予想もつかない。
風景画かな、とは思うものの、海も砂浜も空も似たような沈んだ色をしていた。
そうとう難しそうだ。
「有名な画家が描いた、ナントカって絵画のパズル」
「こんな難しい絵眺めてるから、そんな険しい顔になっちゃうんですよ。もっと子犬とか可愛いのにすればいいのに。……あ、そこ間違ってますよ」
「あ? どこが」
「これです。ここ」
久遠さんの斜め前に膝をつき、間違っているワンピースを外す。
それから、そのピースが本来はまる場所はどこだろうと、半分ほどできあがっているパズルの上に視線を泳がせた。