眠れぬ王子の恋する場所


 ***


普段、パズルなんて面倒なことはしないからか、実際やってみると案外楽しいものだなと思う。

凝り性ではない私でも集中できるし、見れば見るほど何かしら深い意味があるんだろうなって感じの風景画ができあがってくるのを見ていると、もしかしたらパズルって神経を研ぎ澄ますための神聖なものなんじゃないかと、そんな気さえしてくる。

時間も忘れ、黙々とパチパチと進めていき、そして最後のワンピース……となったところで、充実感を分け合おうと顔を上げると。

いつの間に横になったのか、寝ている久遠さんが映り驚いた。

いつ寝たの……と目を疑い瞬きを繰り返す。

クッションを枕代わりにして、横向きで寝ている。
眉間からは、ずっと寄せられていたシワがなくなっていて、穏やかな寝顔に見えた。

三十手前だって話だったけど、そうは見えないなぁ。二十代半ば……前半にも見える。

しかし、綺麗な顔立ちしてるなぁ、とまじまじと眺めてから、さてどうしようと考える。

寝てるのに勝手に帰ったりしてもいいんだろうか。
書置きしていけば問題ないかな、とは思うものの、なんとなくこのまま帰るのも気持ち悪くてバッグのなかから携帯を取り出す。

そして指示を仰ぐために社長に電話をかけると、ワンコールで繋がった。

『なんだ、追い返されたか』

からかうような第一声に、苦笑いを浮かべながら場所を移動する。
起こしても構わないけど、文句を言われても困るからと、洗面所に入らせてもらうことにした。

事務所の給湯室くらいあるんじゃないかっていう広さの洗面所は、大きな鏡の前に洗面台がふたつもついていた。

その下の棚には、白いバスタオルとフェイスタオルが綺麗に畳んでおいてある。
ふたつの洗面台の間には、見るからに高級そうなアメニティグッズが並んでいた。

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